みなさん、醤油はどんな容器のものを使っていらっしゃいますか?
スーパーで買う醤油はペットボトルが大半だと思います。まれにびんに入った醤油やポン酢もありますね。
今回は、私たちがみなさんに提供している容器について考えていることを言語化しようと思います。
現在、不二家では1.8Lの規格びんと1.8Lから100mlまで種類さまざまなペットボトルで商品を提供しています。
このびんとペットボトルの提供ボリュームを比較するとこんな感じです。
少量になるほどペットボトルで提供しているボリュームが増えるので、出荷本数全体で比較するとペットボトルのほうが多いことになります。

不二家のびんとペットボトルの使用比率
ペットボトルはガラスびんの次に登場したもので、びんより軽量のためペットボトルへの移行が進んでいるのが現状です。
さらに、核家族化が進んだため一升瓶より小さいサイズへ移行してきていて、昔ながらの一升瓶での提供は年々少なくなってきています。
一方で、ペットボトルは酸素を微量に透過してしまうので、ガラスびんより賞味期限設定が短くなります。
濃口醤油の場合、ガラスびんは24か月まで、ペットボトルだと18か月までと業界規定されています。
賞味期限が長い方が、日持ちがして良いと考える方もいらっしゃいますし、重いのより軽い方が扱いやすいと考える方もいらっしゃいます。
不二家としてはお客さまのニーズにあわせて、どちらでも提供するという方針です。
しかしながら、ガラスびんからペットボトルへの市場の流れについて、この流れが妥当なのか、良い方向なのか。
つくる責任ある立場として考えなければならない、とも思います。
そもそも、環境への負荷度合いはどれくらいあるのか?
ペットボトルとびんを比較すると、びんのほうが環境負荷を少ないように感じます。しかし、実際のところどのくらい違うのか?
この問いの答えを探るべく、調査を行いました。
しかし、的確に答えはありませんでした。
ここでは答えになり得る、断片(一次情報)になってしまっているところもあると自覚しつつ、みなさんと考えるための材料としたいと思います。
容器の種類と、その使用のはじまり
そもそも、容器には様々な種類があります。ビールびん、牛乳びん、一升瓶、アルミ缶、ペットボトルなど。
社会環境が変化するなかで、容器の使われ方も変化してきていますが、それらの環境負荷を考え始めたのは最近のことです。
容器の種類はどのような変遷で使われてきたのでしょうか。また、環境負荷をどのように捉えたら良いのでしょうか。
リターナルびん
明治時代から使われてきたリターナブルびんの代表格“一升びん”をはじめ、ビールびん、牛乳びんなど、日本にはさまざまなリターナブルびんがあります。
明治以降、びんを回収して殺菌洗浄し、再使用する、という循環システムが確立されました。“リターナブルびん”の循環システムを独自のネットワークと経済活動の中で、回収、再販しているのが“びん商”という商圏です。
明治・大正時代に樽から容器の変遷に合わせガラスびんを扱い始めた会社や、酒販店や卸問屋のびん回収部門として設立されました。
この経済活動は現在でもお店や市町村で回収され、返却、詰め替えるリユース活動がおこなわれています。
ワンウェイびん
リターナルびんに対して、ワンウェイびんがあります。
これは、再使用を前提としないびんのことで、リターナブルびんのように原型のまま洗浄されて再使用しないことから、比較して環境負荷が大きい瓶の総称。リターナブル瓶の対義語として用いられます。
ペットボトル
ペットボトルの歴史は比較的新しくアメリカで開発され、炭酸飲料用ボトルに採用されました。
日本では、1977年にしょうゆ容器として採用したのが始まりです。1982年には清涼飲料容器に、1985年には酒類用容器、2002年には乳飲料容器にとして使用が始まりました。
ペットボトルリサイクルは、1990年代に始まりました。2021年のリサイクル率は86%にまで達しています。
缶
缶の歴史は缶詰から始まります。 18世紀にヨーロッパ諸国の陸軍と海軍のために食料を保存する方法として発明されました。
世界初の缶ビールは、1935年 アメリカのG.Kruger Brewingにより発売されました。
日本では、1958年に朝日麦酒(アサヒビール)が国内初めて缶ビールを発売しました。
缶のリサイクルは1995年容器包装リサイクル法制定を機に再利用が加速しました。2021年のアルミ缶リサイクル率は96.6%にまで達しています。
全国でどのくらい使っているのか?
2021年度、清涼飲料水ペットボトルの生産本数は234億本。対して、びんの生産本数は254万本。アルミ缶は218億缶。スチール缶は52億缶。ガラスびんは推計52億本。
容器の全体的な使用推移を考察すると、ペットボトルだけが増えている。もっといえば清涼飲料水のペットボトルが急激に増えたということ。
1998年ごろからスチール缶からペットボトルへ入れ替わって使用されるようになった。
一方、リターナルびんは、急激に減少している。ワンウェイびんは微減。

主な容器種類と使用量
ガラスびん3R促進協議会データ・資料日本ガラスびん協会 地球温暖化対策(CO 2 削減)自主行動計画

ペット用樹脂需要の推移
PETボトルリサイクル推進協議会:ボトル用PET樹脂需要実績推移

清涼飲料の容器シェアの推移
平成16年度容器包装ライフ・サイクル・アセスメントに係る調査事業 報告書

ガラスびんの使用量の推移
環境省「我が国におけるびんリユースシステムの在り方に関する検討会」第3回検討会 資料4-1より
本当にリサイクルできているの?
ペットボトルだけが増えている原因は、緑茶やミネラルウォーターなど本来家庭で作ったり、水道水でまかなっていたものを、わざわざ流通にのっけて買っているのです。
また、リサイクルできるからいいじゃないか、と思うかもしれないけれど、海外で再資源化しているペットが3割近くあり、地球全体のエネルギーを無駄遣いしている感が否めません。
一方、私たちが使用しているリターナルびんは、用途別割合でみると、やはり清酒がもっとも高いけれど、私たち醤油(調味料)も意外と多いことがわかります。
漠然とペットボトルが増えているからといって、醤油もペットボトルにするなどという安直な考えではいけない、と思い直しました。

ペットボトル再資源化の推移

ペット用樹脂の用途割合(重量・2021)
PETボトルリサイクル推進協議会:ボトル用PET樹脂需要実績推移

ガラスびんの用途割合(重量・2021)
ここで、疑問が残ります。
最近の技術進歩によってペットボトルや缶のリサイクル率は向上し、環境負荷は少なくなっています。
ですが、そもそもリターナルびんと比べると環境負荷はどちらが低いのか?
ペットボトルは再利用するにもエネルギーを使うし、流通させるのにもエネルギーを使っています。
例えば、私たちのように地域密着でやっている酒屋や醤油屋は、原料や資源も地産地消で行うことが多いので、流通エネルギーも低い。
そう考えると、わざわざペットボトルのリサイクルの生態系にのらずとも環境負荷も少なく提供できている現状があるかもしれません。
環境負荷をとらえ直す(LCA)
容器の使用割合はおおよそわかったかと思います。
でも、使用割合だけでは、環境負荷を押し測ることはできません。
そもそも、どの容器が環境負荷が低いのか?
この問いに答えられる尺度があります。それがLCAです。
LCAは環境全体の負荷度合いを考えるときに、避けては通れない概念です。
LCAとは、Life Cycle Assesment (LCA) の略。
ある種の製品又はサービスから何らかの利便を享受するとき、地球からの資源の採取に始まり、製造、輸送、使用、及びすべての廃棄物が地球に戻される時点に至るまで(いわゆる「ゆりかごから墓場まで」)のあらゆる活動を適切かつ定量的に評価するもの。
簡単に言ってしまえば、
地球からのインプット(資源やエネルギー)からアウトプット(製品、廃棄物、大気や水域へ放出されるもの)を製品ライフサイクル(資源採取→製造→使用→廃棄)の流れのなかで包括的に定量化(数値化)して評価するもの。

LCAの基本的な考え方
1970年台、人間活動が環境に与える負荷がいっそう明確に意識されるようになってから構築された概念で、グローバルに使用され、大企業では自社を自己評価するものさしとして使われていたりします。
持続可能な社会を実現するための環境アセスメントであり、「ひとつのものさし」だということですね。
具体的に考える範囲としては、製品は造るだけではダメです。
製造の前から後まで含める。また、流通エネルギーも忘れずに。

製品は製品化する前と後を入れる。流通も忘れずに。
それでは、ペットとびんの環境負荷を比較します。

環境負荷を大まかに5段階で捉えています
LCA手法による容器間比較報告書 <改訂版> 2001年8月

リターナルびんの優位性がハンパないです
LCA手法による容器間比較報告書 <改訂版> 2001年8月
ここでまた疑問。
びんは重量があるので、輸送には不向きです。
ですので、輸送距離を変更した場合のCO2排出量を試算してみます。
輸送距離100km、500kmで比較すると、リターナルびんの優位性は小さくなるものの、
どの容器よりも優位性のある優れた容器であることがわかります。

近距離はもちろんリターナルんびんの優位性が高い。が、長距離輸送でも優位である
LCA手法による容器間比較報告書 <改訂版> 2001年8月

一升びんのリサイクルで、洗びんやカレット製造の負荷があるが、それでもリターナルびんが優位!!
LCA手法による容器間比較報告書 <改訂版> 2001年8月
一旦、ここで結論を。
ペットボトルが増えた理由は、清涼飲料水の利用が増えたから。
緑茶やミネラルウォーターなど本来家庭で作ったり、水道水でまかなっていたものを、わざわざ流通にのっけて買っている。
「リサイクルできるからいいじゃないか」と思うけれど、海外で再資源化していたり、LCAで比較すると環境負荷が比較的大きいのがわかる。
このペットボトル使用の爆使い状況下で、リターナルびんがもっとも環境負荷が低い。
福岡から大阪(600km)であっても、ペットボトルや紙容器、アルミ缶よりも環境負荷は低いことがわかりました。
私たちが扱っているリターナルびんは、容器全体でみれば、米つぶほどの流通量しかありません。
とはいえ、弱い文脈で長く続いている、リターナルびん。今後も一目おいたほうが良いと考えます。
私たちが日々おこなっているびん回収や洗びんには、製造者側のコストがかかっています。
ペットボトルを購入すれば、この労力を外部にアウトソースできるし、設備維持もしなくて済む。
けれど、今一度先人たちが「もったいない」の価値観で考えてきたびん回収リサイクルのシステムをもう一度見直しても良いのではないでしょうか。
そんな弱くて長く続いているものに、一度、目を向けれる私たちでありたい、そんな社会でありたい、と思います。