木桶保有メーカーは281社。木桶の数4,750 本
2021年、醤油製造用木桶の使用実態を明らかにすることを目的とした「醤油醸造用木桶の使用実態に関する全国調査」結果が公表されました。
それによると、全国的に木桶を保有するメーカーは281社。
今でも醤油製造に使用している木桶の数は4,750 本余り。
地域別で見てみると、
・北海道・東北地方 6県39社 290本
・関東地方 6県35社 877本
・甲信越・北陸地方 5県34社 341本
・東海地方 4県30社 765本
・近畿地方 5県32社 399本
・中国地方 4県52社 532本
・四国地方 4県21社 1210本
・九州地方 5県38社 351本
出所: 味の素食の文化センター研究成果概要報告書
東京聖栄大学健康栄養学部・福留奈美
かつて木桶は、発酵現場で欠かせなかった
江戸期には和食の基本である醤油、味噌、酢、味醂、酒はどれも木桶で仕込むの製法が一般的に広がりました。
もとをたどれば、味噌を仕込んで寝かせているときに溜まる液体が、醤油の起源。
味噌を仕込む木桶も、醤油を仕込み木桶も、日本酒を仕込む木桶も、業界をわたって使いまわし、使い倒していて、発酵現場には欠かせない存在でした。
ところが、発酵技術の近代化、工業化により、「なんでも、より多く、より安く」製造できる価値観を良しとされ、その技術が確立され、いまでは木桶で仕込んだ醤油流通は1%以下と言われています。
![明治期から使われている木桶の表。杉木が丁寧に組まれています。](https://fujiya-shoyu.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/DD8AFE5F-A72C-4B48-8A14-3A6CD280F9B7_1_105_c-960x720.jpg)
明治期から使われている木桶の表情。 杉木が丁寧に組まれています。
木桶仕込みの営みで思うこと
発酵の現場に関わらず、かつて人間の営みは、上流から下流まですべて木桶が関わっていたといっても過言ではありません。飲水も桶で汲み、排泄物も桶で集めていた時代がありました。
日常生活で欠かせなかった木桶が、近年、安価な大量生産のプラスチックに変わったことで、「液体を汲む、貯める」という機能の外にあった価値が知らず知らずに失われていったと思います。
例えば、味噌や醤油などの発酵の場にあった「菌とともに暮らす」という共生の感覚。
例えば、子どもが積み木で遊ぶように、あたたかい木のぬくもりを感じることによる精神の安定。
例えば、生まれた場所である土に還ることが必然であるという、本来の木の力。
このように、数字では表しにくい不思議な木の力があると思うのです。
大量生産と消費の移り変わりによって、金属製のタンクを使用して数万リットルの製造と貯蔵ができるようになりました。
タンクは木桶の何十倍もの大きさも多種あり、一度に仕込める容量でいうと圧倒的にタンクの方が大きくなります。
タンクと木桶の違いを簡単に比較すると、
これだけ見ると、タンクが圧勝のように見えますね。
でも、味のオリジナリティや深み、多様さは木桶でつくるほうが断然勝ります。
例えるなら、クラフトビールや地方ワインのようなバラエティに富んだ味が楽しめるのです。
ー不二家の木桶仕込み醤油の味とはー
「過去の長い時間」が味をつくりだす
不二家の木桶は明治期から使い続けている杉桶。
木桶の寿命は100年〜150年といわれてこれまで5代に渡って使い続けています。
記録が残っているわけではないので正確なことはわかりませんが、近隣山から切り出した八女杉を矢部川に流して運んで、みやまの木工職人の手によって組まれた木桶と推測されます。良質な八女杉をつくるのにも相当な時間がかかりますから、数百年に渡る先人たちの夢や苦労が積まっているともいえると思います。
![不二家醤油のはじまり](https://fujiya-shoyu.jp/wp/wp-content/uploads/2021/12/08-960x744.jpeg)
不二家醤油のはじまり
「蔵人と菌」が味をつくりだす
木桶で手間ひまをかければかけるほど、諸味の変化を肌で感じとれます。
蔵人たちが長い年月をかけて自然発酵させ、独自のもろみに仕立てていきますから、不二家醤油の味わいは蔵人が一番わかっているもの。
日々、異なる表情を見せる諸味だからこそ、そこに住み着く微生物の手助けをして不二家の味に近づけるように二人三脚しています。
そう考えると、不二家に住み着いた菌と蔵人のアンサンブルの賜物ともいえると思います。
![](https://fujiya-shoyu.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/532B3BBD-CDD8-4671-ABBB-10BCA21E5ABF_1_105_c-1-960x720.jpg)
諸味仕込みの様子
「筑後の自然」が味をつくりだす
寒い冬から新芽が息吹き春になるころ、杉木と竹のタガだけで組まれた桶に仕込みをおこないます。
木桶を設置している場所は、冷暖房がととのっている場所ではなく、自然の気温、湿度のままの蔵。
だから、筑後の気候をダイレクトに微生物が受け取り、発酵を促していきます。
また、不二家の近隣には「名水百選」にも選ばれる湧水や、日本一の炭酸含有量と言われる鉱泉水が湧き出る鉱泉場、
水郷柳川や大川、みやまといった広大な田園に水を送り込む矢部川など、豊富な水に恵まれた土地柄。
この水をふんだんに使って仕込みが行われます。
この諸味を数年育て上げてやっと醤油を絞ることができるようになります。
![筑後の自然:一面の水田](https://fujiya-shoyu.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/IMG_20220702_194217_3-960x720.jpg)
筑後の自然:一面の水田。福岡県は約2000年前の縄文時代晩期から稲作が行われてきた、日本の米づくりの源流の地です
![筑後の自然:日本一の含鉄炭酸水](https://fujiya-shoyu.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/IMG_20220926_202459661-960x540.jpg)
筑後の自然:日本一の含鉄炭酸泉
![筑後の自然:一面の麦畑](https://fujiya-shoyu.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/P5212124-960x720.jpg)
一面の麦畑:福岡県南部では米と麦の二毛作。豊富な稲・麦が収穫できます
![](https://fujiya-shoyu.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/P5029234-960x720.jpg)
筑後の自然:水郷柳川では、堀割が町中を縦横に走り、ドンコ舟で楽しむ川下りができます
![](https://fujiya-shoyu.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/P3271461a-960x720.jpg)
筑後の自然:矢部川の流域では、筑後平野の稲作に必要な水を提供しています
![筑後の自然:矢部川](https://fujiya-shoyu.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/P1038163a-960x720.jpg)
筑後の自然:矢部川と飛形山、清水山の美しいやまなみ